私立郁文学園 あつあつ 結花

8月8日(Sun)

匡輝 『プールはいいなぁ!』

「いやぁ、たまにはこういうご褒美もいいわねぇ!」

「…お前は何もしていないはずだが」

 いつの間に的音が来ているのだろう。

「僕が誘ったんだけど…いけなかった?」

「別に悪くはないんだが」

 むしろ良い。的音は小柄ながら出る所はきっちり出た体型で、学校指定のおとなしめの水着でも充分に鑑賞に耐える。

 言っておくが、俺はもう何か的音に妙な感情を抱いているわけじゃない。もう未練はすっぱり捨てた。ただ一人の男として良い物は良いと思っているだけだ。本当だぞ?

「お待たせしました」

「いやぁ、助かるーっ!」

「プール、プール〜」

「こんにちは」

 最近お馴染みの女子演舞の面々もやってきた。みんな学校指定の水着だがこれまた中々…

「匡輝、鼻の下延びてるよ」

「…仕方ないだろう。ゴッちんはどうなんだよ」

「僕は的音一筋。的音はやっぱり可愛いなぁ…」

「はいはい」

 こうも臆面もなくのろけられると突っ込む気にもなれん。

「そこ、男同士でなに固まってるの。こっち来なさい、こっち」

「今行くよ」

 的音に呼ばれてゴッちんはいそいそと歩きだす。俺も拒否する理由などないので主人に呼ばれた犬よろしく女の子たちの方へと急いだ。

「はい。ちゃんと準備体操してね。こら、睦月ちゃんもちゃんと体操をする!」

「はやく水につからせてくれー」

「筋くらい伸ばしとかないと、溺れてもほっとくわよ。ほら、一、二!」

「一、二!」

 寺西や武東、蓮馬は素直に体操をしている。俺もゴッちんとともにとりあえず筋くらいは伸ばす事にした。前に身体を倒し、後ろにそらす。グッグッと腰をひねる。と、そういうことをしているとどうしても思いっきり身体を動かしている女の子たちが目に入るわけで…。

 にしても、女子演舞って実はかなり粒ぞろいじゃないか?

 寺西は的音と同じくらいの身長しかないが、童顔なのでむしろ似合っている。体型はまあこれまた顔に似合っているが、これが好みという奴もいるだろう。肩先まである髪をまとめて白い水泳帽につっこんだ姿はまるで中学生のようだ。

 武藤はショートカットで長身、スレンダーな体型。キツめの顔だちだが充分に美人の部類に入る。どちらかと言うと女の子に人気があると言うが、なるほど頷けるタイプだ。きっと「お姉様〜」とか呼ばれているに違いない。

 蓮馬は肩まである黒髪をきゅっとひっ詰めている。日本人形のような顔だちだが、胸の大きさは日本人ばなれしているようで身体をひねるたびにぷるぷると揺れている。明らかにこの中で一番大きい。

 そして武東。スタイルも顔もさすがは二年のアイドルと言われるにふさわしい…いや、着替えを見てしまった時にスタイルについては充分に判ってはいたのだが、こうやって太陽の下で見るとまたはっきりとわかる。足は長く、ウエストはキュッと締まって胸は意外に豊か。

「だから鼻の下延びてるって」

 ほっとけ。男なら当然だ。

「先輩、泳げるんですか?」

 武東が近付いてきた。

「一応。あんまり得意というほどじゃないけど小さい頃水泳教室に通ってたことはある」

「あ、私も通ってました。案外速かったんですよ?」

「武東はスポーツはだいたい出来るだろう」

「そうですね。一通りなんでもやりましたけど…あ、スキーは苦手でしたけど」

 てへへっと笑う。

「こらーっ!結香も斉藤さんもそんなとこで何やってんのさー!早く泳ごう!」

「武藤は元気だな」

「ホントに」

 俺達は何となく顔を見合わせて笑うと、プールに入っていった。

結香 『楽しい水遊び』

「うわっ、気持ちいいー」

 思わず笑ってしまうくらい、プールは素敵だった。ちょうど良くぬるまった水に足から入り、じゃぽん!と頭まで一気につかる。水の中で目を開けると向こうに武藤達の脚が見える。

 ドポン、水音に横を向くとすぐ横に

(う、うわわわっ!)

 そ、その、男の人のこっ、腰がっ!ガボガボッと息をはきだしてしまい、慌てて立ち上がる。不思議そうにこちらを見ている斉藤先輩と目があった。

「あ、あはははっ!その、当然ですよねッ!」

「…何がだ?」

 よくわかってないらしい斉藤先輩に感謝だ。私は作り笑いで誤魔化すともう一回ちゃぽん、と肩まで水につかった。

 そ、そうよね。プールなんだから男の人は水着だし、上半身は裸だよね。第一そんなもの、ウチの道場でいくらだって見慣れてるはずじゃない。お父さんだって門下生の人だって夏は上に何にも着ないで練習してるなんていつものことだ。なのに何でこんなに先輩を見るとドキドキするんだろう。

 …でも。

 私はちら、と隣を見た。斉藤先輩は案外筋肉質だ。マッチョというわけじゃないけれど、結構がっしりしている。そりゃ今までもTシャツ姿でそれはわかっていたんだけど、こうやって間近で見ると…って、私は何を考えるのよぉ…。

 ふう。落ち着け落ち着け。眼だけ水の上に出してちゃぽちゃぽと揺れる水の音を聞いているうちに、やっとドキドキがおさまった。代わりに真夏の日光に焼かれた頭がだんだんと熱くなってくる。キラキラと日光に跳ねた水が輝く。

 学園のプールは一週間に一度は水を入れ替えるから、そこらのレジャーランドのプールよりもよっぽどキレイだ。なぜか飛び込み専用のプールまで隣に有り、6mなんて水深を誇っている。こちらは監視の先生がいない場合は使用禁止なので今日は使えない。

 と言うか、一般プールの方もだいたいならば授業でもないのにそう簡単に使えるわけはないのだ。夏場は水泳部の貸し切りで、一般生徒は基本的に立入禁止というのが常識だった。

 だが今日は水泳部は対外試合で留守。斉藤先輩は何やら色々なツテを使ってその間にプールを使う許可を取りつけてきたらしい。案外顔の広い人だ。

「藤堂先輩、泳ぎましょ〜」

 佳子は憧れの藤堂先輩にべったり。中川先輩が何か言いたげなのが笑える。武藤は彩と競争中。武藤は見るからにスポーツ万能で実際その通りなのだが、彩も水泳では負けていない。この二人は体育の水泳の授業中も張り合っていた。

 と言うことは私はやっぱり斉藤先輩と一緒に居ることになるわけだ。へへ、何して遊ぼうかな。

「まずは軽く泳いでみるか?25mのクロールってとこで」

「はい!軽く、ですね」

 とか言いながらスイーッと2コースの端まで行く。

「じゃあよーい、ドン」

 トン!と壁を蹴る。三回水をかいて一回息つぎ。身体をほぐすためだから本気で泳ぐまではしない。ふと横を見ると先輩もゆったりと泳いでいた。

 私達はだいたい同時にゴールした。少しだけ息が上がっている先輩をニヤリ、と下から見る。

「なんだ?」

「先輩ダメですよ、25mくらいでハァハァ言ってちゃ。持久力に難ありですよ?」

 冗談っぽく言うと、先輩は片眉を上げた。

「む、むむ。最近ずっと立って歩いてばかりだったからなぁ…鈍ってるかな」

「年ですか?」

「年長者に対してその口のききよう。お仕置きだな」

 パシャッ!

 いつのまにか握られていた先輩の手の隙間から勢いよく水鉄砲が吹き出した。

「きゃっ!」

 見事に私の頭に当たる。

「もーっ、やりましたね!」

「わははは、斉藤家に伝わる水大筒の秘技だ。思い知ったか」

「えいっ!」

 ドバアッ!

 グッと水の中で両手で掌底を構え、呼気と共に一気に押し出す。噴水のように飛び出した水は先輩の顔におもいっきり降り注いだ。

「うおおっ!な、何だこの攻撃はっ!」

「武東流水練術、崩瀧!水の中で私に勝とうとは千年早いです!」

 ちなみに嘘じゃない。ちゃんとウチの道場に伝わる水の中での戦いに使う目くらましの一種だ。他にも薙刀の刃を使って水をかけたりする技もあったりする。

「ううむ…さすがは古流。しかし所詮は大技、水大筒の手数には勝てまいて!」

 パパパッと連続で水鉄砲が飛んでくる。私はキャアキャア言って避けながら先輩と水の掛け合いを楽しんでいた。

『いちゃつく二人を見る友人達』

「どーよ、アレ」

「…二人の世界ですわね」

 プールの反対側で匡輝と結香が水をパシャパシャ掛け合っている。時々すごい水しぶきが立つのは結香が妙な技を使っているせいらしい。

「結香ったらあんなに楽しそうにしてるなんて〜。私も混ざる〜」

「やめときなさい。馬に蹴られるわよ」

 的音が佳子の肩に手を置いた。

「匡輝があんなに女の子と仲良く…うんうん」

「豪造…アンタも何を感動してるのよ。そんなだからアンタ達はホモ達だなんて噂が立つんだから」

「そうなのですか?」

 彩が興味津々という眼で豪造を見つめる。

「ち、違うっ!僕は的音一筋に決まってるじゃないかッ!」

「も、もう!豪造!」

 豪造は常にシンプルに好意を表す。その攻撃に的音は思わず顔を赤らめた。

「はいはい、ご馳走様です」

 睦月はヤレヤレ、と首を振った。

「でもあの二人、このままだといつまでも『友達以上』までしか行きませんわね」

「結香ってああ見えて奥手だもんね〜」

 実は幼なじみの彼氏がいる佳子がウシシ、と笑った。

「匡輝も自分から言い出す方じゃないしなぁ…」

「よし、ここは私達が一肌脱ぐしかないでしょう!」

 的音がうむ、と腕を組んだ。

「どうするんですか〜?」

「とにかくこういう事は本人たちをその気にさせないとダメよ。しかるべき舞台を用意して、あの二人でもそーゆー雰囲気になるようにしてあげないと!」

「具体的には?」

「そうねー…豪造、何か案は?」

「ぼ、僕?ううーん…」

「花火大会はいかがでしょう?」

 彩が提案した。

「皆で行くということにして、途中ではぐれてしまえばよろしいですわ。花火大会で二人きり。このシチュエーションで何も出来なかったら斉藤先輩には少しばかり教育が必要かと思われますけれど」

 ぷるん、と胸を揺らしながら彩ははしゃいでいる二人を見た。

「それね。でもただ二人きりにするだけじゃ芸がないわ。それまでにあなた達は結香ちゃんをその気にさせておくこと。匡輝はこちらで焚き付けるわ」

 的音は「いいわね」と豪造を見た。

「わ、わかったよ。僕も武東さんと匡輝はお似合いだと思うし」

 頑張る、と拳を握る。

「決まりよ。匡輝もそーろそろ年貢の納め時なんだから」

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