私立郁文学園 あつあつ 結花

8月28日(Sat)

匡輝 『何を今更』

「無理だ」

「出来る」

「省司、あと本番まで何日あるか言ってみろ」

「二週間ある」

「まだ大看板も描き終わっていないんだぞ?この状態で更に二週間でもう一枚同じ大きさの絵を描けっていうのか」

「お前なら出来るはずだ」

 省司は一歩も譲らない。

 こいつは男子応コン長…つまり応援関係をすべてとりまとめる大幹部だ。さらに郁文学園の運動会では応援コンテストと言って、音楽に合わせて大声で歌を唄いながら色紙を貼った手持ちパネルを操作することにより、さまざまな絵文字や演出を行う出し物が行われている。よく甲子園などで応援団がしているあれだ。一ブロックの持ち時間は15分なのでだいたい三曲くらいが標準で、それは今年も変わらないようだった。

 問題はその最後に絵パネとよばれる特殊パネルを使うかどうかだった。普通はパネルは白・赤・青・緑・黄色などのなかから四色ほどを使うのが一般的だが、たいていどこかのブロックがそれ以外にもう一枚、特殊パネルを使う。ふつうは単色パネルでは実現できないもの…早い話、もう一枚でっかい絵を描いてそれを手持ちパネルサイズに切り分け、各自に持たせることにより、ほんの何秒か大看板の下にもう一枚看板を出現させるという演出を行うために使われる。

 そして省司が俺に求めているのはその絵パネの中でももっとも難度の高い『続きパネル』というものだった。これはスタンド上の大看板と連続性を持たせた絵パネで、当然これを作るとなると紙を目的の大きさに貼りあわせたうえでさらに看板パネルを並べ、そこから繋がるようにデザインを描きこんで行かなくてはならない。看板パネルも実際に製作していく過程で最初のデザイン案とはやや違ってきているからかなり面倒な作業になるのだった。

「前は要らないって言ってたろうが!」

「要るようになったんだ。東軍が絵パネをやるんだよ。負けるわけにはいかん!」

「ちょっと待て。東軍?」

「ああ。笈阪が無理強いしたらしいんだが…それがどうかしたか」

「ふむ。ちょっと待っていてくれるか、話し合ってくる」

 急に態度の変わった俺を不審そうな眼でみる省司だったが、それはこの際どうでもいい。俺はゴッちん達と話しあうべく作業場に戻った。

 

「僕はやれると思うけど」

「斉藤の決定に従うわ」

 ゴッちんと岩神はあっさりと頷いた。

「ああ…これで運動会までは泊まり込みか…」

 賢木はブツブツ文句を言っているが、コイツはなんのかんの言っても手伝ってくれる。

「先輩、俺も頑張ります!」

 今年の二年の期待の星、中看板長の六名賀も目を輝かせる。他の一年、二年もやる気はあるようだ。

「しかし…それでも人数が足りない。それに絵パネは室内作業が前提だが、あと体育館が使えるのは二回しかない。それでもやるか?」

「私達が協力するわよ」

 円陣を組んで話し合っていた俺達の後ろから声がした。

「結香」

「女子演舞が手の空いた時には手伝うわ。それに女子演舞はあと二回体育館の使用許可が出てる。これを看板に譲れば何とかなるでしょ」

「いいのか?他の舞員は」

「私はいいと思うですよ〜?」

「演舞の方は斉藤さんのおかげで形になった。今度はこちらが手伝う番だ」

「それに南軍の仲間として協力するのは当然の事ですし」

 いつもの三人が賛成してくれる。

「実は応コン長が頭を下げて来たんだよ。できる限り看板に協力してやってくれってね」

 填龍まで現れた。

「実際斉藤には世話になってるし、あと二週間だ。出来る事は全部やった方が面白いじゃないか」

「……ま、確かにな」

 こうやって看板は本日より総動員令を発令。泊まり込むことができるものは生徒会が用意している合宿所に泊まり込むことに決定された。

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