私立郁文学園 あつあつ 結花

9月13日(Mon)

匡輝 『目覚め』

「匡輝…そろそろ起きて」

 身体を揺すられて目が覚めた。ふと自分がどこにいるのかわからなくて戸惑う。だがすぐに昨夜の事を思い出した。

「結香、おはよう」

 結香はもう起きて服を着ていた。しかも…

「なんか昨日と服が違うが。着替えなんか持ってきてたのか?」

 昨日こちらに来た時は荷物は持っていなかったと思ったんだが。

「そ、それはね…」

 なぜかもじもじ、と結香は指をからめた。

「さっき起きてとりあえず昨日の服着て、合宿所まで荷物を取りに行こうと思ったんだけど…」

「ああ、合宿所に荷物置いてた…『だけど』?」

 はて。取りに行ったんじゃないのか。そこまで考えて話が読めた。

「倉庫の前に置いてあったの」

「つまり」

 誰かが持ってきてくれたということだ。そして中の状況もご承知と。

「ってヤバいじゃないか…」

 俺はともかく、女である結香が。

「あ、それは大丈夫だと思うの」

 そう言って結香は一枚の紙を俺にさしだした。

「何だ…?」

『よくもわたくしの結香を…お恨み申しあげますわ』

「…蓮馬だな」

『追伸。今日だけは大目に見てさしあげます。でも片づけはサボらないで下さいまし』

 相変わらず所々妙にくだけた言葉を使うお嬢様だ。

「と言うわけで、彩で良かったと言うか、一番見つかってほしくない人に見つかったと言うか…」

「仕方ないか。あ、すまん」

 結香がきれいに折り畳んだ俺のTシャツと柔道着を持ってきてくれた。

「…トランクスは」

「あ、間に入ってるから…」

 赤くなってまたもじもじする結香。昨日あれだけの事をしたのに、恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。

結香 『出陣』

 今日はずいぶんと早くに目が覚めた。目を開ける前にズキッと股間が痛み、その痛みで昨夜の大冒険を思い出す。

 そっか…私、匡輝に抱かれたんだ。

 夢じゃない。身体の下にはマットの少し固めの感触、耳をすますともう一人の寝息が聞こえる。すぐそばに。

 よし!

 私は気合とは裏腹にそっと目を開けた。

 匡輝はすぐ目の前で寝ていた。いつもの無愛想な、どちらかというと不機嫌そうな顔ではなく、邪気のない可愛い寝顔。

 思わず見とれてしまう。昨夜のエッチの時の顔も可愛かったけど、この顔も捨てがたい。世界で私だけが自由に見ることのできる、そんな顔。

 そう思うと愛しさで身体がいっぱいになった。心臓がトクトクと鼓動を早め、身体の芯が潤う感じが満ちる。私はそのまま幸福な気分に身をゆだねてしばらく匡輝の寝顔を見ながら横になっていた。

 

 トスン

 扉のところで音がした。ドキリとして扉の方を見る。何しろ私達は真っ裸だ、こんなところに誰かが入ってきたら大変な事になる。

 匡輝をおこさないように、でも急いで昨夜あちこちに散らばった服をかき集めた。下着はこの際置いといて、とにかくTシャツと短パンだけを身につける。ついでに短パンから携帯を取り出して電源を入れ、時刻を見る。

 6時前だ。まだ人が来るには早すぎる。

 私はそれでも用心して扉の方に近付いた。人の気配がない事を確かめてから、そうっと扉を開ける。

 外には誰もいなかった。そして足元にはバッグが一つ。

「あれ、これ私の…」

 そう、そこにあったのは私のバッグだった。合宿所に置いてきたはずの着替えの入ったバッグ。

 その上には紙が一枚二つ折りになって乗っており、重しだろう、石が乗せてある。

「はて」

 その紙を広げて中に書いてある文字を読む。すぐに私は彼女の姿を探して外に駈けだしていた。

「彩!」

 でもどこにも彼女の姿はない。

「ありがと、彩」

 ちょっと意地悪で、人をからかうのが好きで、でもいつも人のフォローばかり考えている優しくてお節介なお嬢様。

 私は素敵な友人を持った事に感謝しつつ、世界で一番愛する人のところに戻っていった。

 

 7時になった。

 匡輝を起こし、彼が服を着るのを待ってから一緒に倉庫の外に出る。

「おい、一緒に行くつもりか?」

「当たり前じゃない」

 なに当たり前の事を言ってるのかしら。

「…あのなー。昨日の夜いなかった二人がそろってこんな朝早くから校内をうろついていたらどう思われるかわからないわけじゃないだろう?」

「わかるからやってるのよ」

 微笑んでウインク。

 そう。わかってる。だから見せつけるの。もうこの人と私は本当の恋人同士なんだって学園みんなに知らせておかなくちゃ。

「…やれやれ。どうやら覚悟を決めなくちゃならんか…」

 もう…なによ、覚悟って!

「よし!そうと決まれば俺も男だ」

 そう言うと匡輝は私の手を握った。そのままどんどん歩きだす。

「ちょ、ちょっと匡輝!それはあんまりじゃ」

「見せつけるんだろ?とにかくノドが渇いたし、学食前の自販機でコーヒーでも買おう。あそこで待ってれば宿酔の連中がぞろぞろやってくるさ」

「…うん!」

 私と匡輝は朝日の中を互いの手を握りあって歩いていった。

次へ

人の山田様が見てる

凉武装商隊 since 1998/5/19 (counter set:2004/4/18)