私立郁文学園 あつあつ 結花

9月5日(Sun)

笈阪 『犯罪』

 闇の中にちらちらと懐中電灯の光が動く。やがて目的のものを見つけたらしく、その動きが止まった。

「今度こそ…」

 笈阪は片手に持ったノコギリをぐっと握りしめた。前回は普通のナイフで演舞刀の柄を切ろうとしてあまりの硬さに断念したが、今回は絶対に失敗しない。

(あの野郎…)

 この前見かけたデート中の二人の姿が思い出されて嫉妬に胸が締めつけられる。その時笈阪も他の女の子とデート中だったのだが、その事は笈阪の頭の中からは完全に抜け落ちていた。所詮はただの遊びだ。問題なのは自分のものであるはずの武東結香がよりによってあのむっつり野郎の斉藤と付き合っている事であって…!

 思い知らせてやる。

 直接斉藤を叩きのめしてやろうとしたけれどもそれは結香にバレてしまった。もう同じ手は使えない。そしてその時に結香に演舞刀を突きつけられて惨めに逃げ出してしまった事が笈阪の気持ちを追い詰めてしまっていた。

 本来なら笈阪はこんなふうに影に隠れて物にあたったりする性格ではない。自信過剰で強引で鼻持ちならない所はあるけれど、どちらかと言うと陽性で男友達も多い男だ。だが生まれて初めて本気で好きになった女の子に完全に振られてしまって、相当に傷ついてしまったのだろう。今まで何もしなくても女の子にちやほやされていただけに素直にその事を認めることができず、普段ならまずやらないような行動に出てしまっていた。

「や、やるぞ…」

 ノコギリを演舞刀の柄に当てる。罪悪感に気がつかないフリをして、グイッと引いた。

 ゴリゴリゴリ…!

 買ったばかりのノコギリの刃はドンドンと柄に切り込んで行き、あっという間に演舞刀を真っ二つにした。

「や…やった…」

 もう一本切ってしまえば後は歯止めはない。笈阪は二十本の演舞刀を次々に切り離していった。

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人の山田様が見てる

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